砂売りが通った

気配りだとか思いやりだとか、感情と行動のはざまの領域をそれらしい言葉でくくるのは、結局なんらかの規範の内部にとどまる八方美人的な姿勢だ。無意識の行動を誉められるのはありがたく、また励みにもなるが、自分がしてもらいたいことをしたまでですなどと人前で平然と口走るような輩に出くわすたびに、私はしばしば黙り込んでしまう。自分がしてもらいたいことを他人にしてあげるという理屈は、考えようによっては謙虚で、奥ゆかしくて、好意を感じさせるものだが、それはなかば自慰的な行いでもあるのだ。自分にしてほしくないことを他人にしないというのも一種のエゴイスムなのだから。

熊の敷石 (講談社文庫)